研究概要

研究概要

2010年に臓器の移植に関する法律が改正されて以降、ご両親の意思に基づいた18歳未満の小児の脳死下臓器提供は53件(2021年3月末時点)に至ります。小児の脳死下臓器提供に関しては、子どもに適した脳死判定基準、子どもの意思表示をどう確かめるか、どのようにして被虐待児を除外するのかなど、長きに渉り多くの課題が指摘されてきました。

また、わが国における小児患者からの脳死下臓器提供は、改正法の施行後、徐々に増加しているものの、先進諸国の実数に遠く及ばない現状です。臨床現場に於いて脳死下臓器提供を行うに当たり、小児特有の課題を抽出し、その実効的な対策を検討することは最も重要な課題です。多面的課題が、過去の私たちの研究で明らかとなり、特に子供も本人や家族の意思を確認するプロセス、虐待の除外に関する方策、家族の悲嘆に寄り添うケア等に於いて強調されました。したがって、脳死下臓器提供数を増加させるには、これらの実務を行う実務者の負担感を軽減するための教育・啓発が行われなければなりません。

私たちは、平成30年度から令和2年度に移植医療基盤整備研究事業「小児からの臓器提供に必要な体制整備に資する教育プログラムの開発」で小児の脳死下臓器提供に関するテキスト発刊や被虐待児を除外するプロセスに関する提案、患者家族支援体制等々、多くの成果物を公表いたしました。

この研究体制を継続し、特に小児関連学会の協力のもとに上記の研究をさらに進めていきます。

 

研究の趣意

私たちは、前年度成果を基盤とし、特に以下のポイントについて重点を置き、①臓器提供の律速因子の解明、②被虐待児を除外するマニュアルの改訂および可視的ツールの開発、③全国の5類型臓器提供施設における体制の現状調査、④重症小児患者における臓器提供の意思表示、⑤終末期患者の家族ケアのあり方、⑥更なる教育・啓発活動について検討します。①は円滑な制度運用のために改善すべき最新の課題を明らかにします。②はガイドライン改訂を受け、医療現場の負担軽減に寄与する成果物を作成します。③では5類型施設における制度の浸透度を計り、より良い周知の方策を考察します。④では小児の意思について考察し、制度の解釈に資する成果を目指します。⑤では悲嘆する家族へのケアを実践するための方策を提示します。⑥では移植医療や臓器提供に関する社会啓発、学校・家庭における命の教育のあり方について検討します。未来社会を構成する世代が臓器提供について考える機会を設けることが必要です。

本研究は小児の脳死下臓器提供の制度ならびにその運用において認識されうる多角的課題を踏まえ、先ず各々を個別に検討し、各成果を総括することにより、総合的な解決策の提言を最終成果とすることを研究の目的とします。

 

研究の体制

(1)研究実施体制

研究責任者は共同研究機関の研究実施者と協議の上、具体的な研究計画、スケジュールを作成し、研究の進捗管理を行い、全体会議、並びに分科会を設置し研究を進めます。

(2)研究計画・方法と年次計画

■ 小児の臓器提供体制の現状と実施における律速因子に関する研究(荒木尚)

令和3年度は小児脳死下臓器提供における律速因子について、ガイドラインや質疑応答集上に記された文言の解釈から検討を進めました。令和4年度は全国臓器提供5類型施設の現状を把握するためのアンケート調査を実施します。海外専門家のインタビューを行い、被虐待児からの臓器提供に関する実情についてわが国の制度との比較検討を行います。日本臓器移植ネットワークから情報を得て分析し、臓器提供の実施において律速となる因子を抽出します。令和5年度は小児の臓器提供を経験した施設と地域の医療機関が連携体制を構築し相互支援を可能とするネットワーク構想を提言する。研究班全体の管理、調整も行います。

■ 重症小児例の治療限界の評価と家族の意思確認に関する研究(西山和孝)

令和3年度は先行研究で得られたデータ解析から被虐待児の臓器提供に関する意識調査を行いました。令和4年度は小児重症患者の治療限界の医学的評価や家族意思確認の実態に関するアンケート調査を行います。その結果を基に令和5年度は小児救急・集中治療現場の課題抽出を行い、家族の意思確認のあり方を考察します。

■ 被虐待児の除外に関する研究(種市尋宙)

令和3年度はガイドライン改訂を受け「被虐待児を除外するためのマニュアル」改訂を具体的に着手、継続中です。改訂内容の周知について考察しました。令和4年度は理想的な被虐待児の除外のあり方について検討を行い、令和5年度は基幹施設と地域の医療機関との相互支援を可能にする連携体制構築について研究します。

■ 小児の終末期医療の実践に関する研究(多田羅竜平)

令和3年度は小児の終末期医療に関する総合的な教育・啓発のあり方に関する検討を行いました。令和4年度はより実践的な内容として終末期を迎えた患者とその患者家族の意思決定方策について考察し、令和5年度に救急・集中治療現場の医療従事者の対応に資する一定の成果物として指針を提言します。

■ 小児脳死下臓器提供における家族ケアに関する研究(別所晶子)

令和3年度は重篤な病状にある小児患者家族の悲嘆の特殊性に立脚し、家族ケアについて文献的研究を実施しました。令和4年度は海外識者のインタビューを通し、同様な状況にある家族ケアの理想像を構想します。令和5年度は専門職が早期から家族ケアに携わる利点を生かした、新しい家族ケアのあり方について指針を設けます。

■ 小児脳死下臓器提供における看護ケアに関する研究(日沼千尋)

令和3年度は終末期医療における小児看護職の多岐にわたる役割について文献的考察を行い、臓器提供における看護職の特殊性について注目しました。令和4年度は小児脳死下臓器提供における看護職用の教育ツールを開発し、令和5年度には、総括として脳死下臓器提供に求められる看護師の役割について明らかにします。

■ 小児の意思決定に関する研究(笹月桃子)

令和3年度は小児患者への医療行為や家族の意思決定を確認する際の、子ども本人の意思について検討しました。令和4年度は更なる考察を行い、脳死下臓器提供を含めた終末期医療に瀕した小児の意思決定に関する研究を行い、令和5年度の提言に繋げていきます。

■ 脳死下臓器提供の教育に関する研究(瓜生原葉子)

令和3年度は全国中学校における「道徳」授業や臓器移植に関する教科書記載の実情把握を行いました。中学教諭が臓器移植に関する授業を円滑に実施できる環境整備、授業をきっかけとした家族との対話を促すしくみについて考察しました。中学校教育の中で「中学教諭が、生命の尊重の題材として臓器移植に関する授業を実施してみようと思い(行動意図),複数名が実施し(行動),その経験を共有する」ための教育支援ツールに関し検討し、令和4年度も継続します。また高校、大学でも継続的に、移植医療について学び、我事として考える教育手法に関する研究を行います。令和5年度は成果物を通して一定の提言を行います。

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